大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和29年(う)2026号 判決

被告人 駒形倹治

〔抄 録〕

一、弁護人の論旨第一点について。

原判決がその法律適用の部において、併合罪の加重をするに当り、「所定刑及び犯情の最も重い云々」といつているのは、横領罪と業務上横領罪又は詐欺罪との関係においては後者の所定刑が重いし、また法定刑の等しい業務上横領罪と詐欺罪との間においては犯情の軽重により、結局最も犯情の重い原判示第一の八の罪の刑を基準として、これに併合罪の加重をしたという趣旨であることが認められるから、原判決の説示には所論のような瑕疵はない。また、所論は詐欺罪には未遂を処罰する規定があるのに反し、業務上横領罪にはそれがないことを論拠として、前者の方が後者よりも常に犯情が重いと主張しているが刑法第十条第三項にいわゆる犯情の軽重は個々の犯罪事実における具体的な諸般の情状を比照して相互間の軽重を決定するという。趣旨であるから、或犯罪について未遂犯を処罰しているかどうかというようなことは犯情の軽重を判定するのに斟酌すべき事項ではないといわねばならない。しかも、一般に横領罪は、領得意思の発現たる行為があればただちに既遂となるものであつて、未遂犯の成立する余地の存しないものであるから、刑法が横領罪について、未遂を処罰する規定を置かなかつたのは、むしろ当然のことであつて、この点からいつても未遂罪処罰の規定がないということを理由にして、業務上横領罪の方が詐欺罪より常に犯情が軽いものであると主張する所論の理由のないことは明白である。要するに所論は独自の見解に立脚するものであるから採用の限りでなく、論旨は理由がない。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!